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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1371号 判決 1962年5月31日

控訴人 有限会社打田商店

右代表者代表取締役 打田増男

右訴訟代理人弁護士 岩橋東太郎

被控訴人 東方雅夫

右訴訟代理人弁護士 宇佐美幹雄

<外三名>

右弁護士宇佐美幹雄訴訟復代理人弁護士 由良数馬

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

当裁判所は被控訴人が昭和三二年一月二一日訴外松田熊之助に対し金二〇万円を支払期日同年三月二一日の約で貸与し、同訴外人は同日その支払を確保するため、被控訴人主張の約束手形一通を振出し、控訴人は同日この手形に裏書をなしたものと認定し、この裏書が右訴外人の偽造にかかる旨の控訴人の主張は採用しない。その理由は原判決の理由冒頭より同二枚目表四行目までと同一であるから、之を引用し、尚同理由第一行目に「甲第一号証」とある次に、「(但し第一裏書の記名印及び捺印の成立は争がない)」と附加する。

ところで右のごとく他人の借受金債務の支払確保のため、同人振出しの約束手形に裏書をなした場合には、単に手形上の債務のみを負担したものであるか、或は基本の借受金債務についても保証若くは連帯保証をなしたものであるかは当事者の意思解釈の問題であるから、双方の利害得失を比較検討してみると、裏書人としては、もとより自己の債務を最小限すなわち単に手形上の債務のみに止めることを希望するのが普通であり、一方債権者としても手形の裏書を受けた以上、必要に応じこの手形上の権利を行使すれば支払確保の目的は一応達せられるのである。してみると手形上の債務の負担に加えて、更に基本の借受金債務の保証乃至連帯保証契約が結ばれたとみるためには、別にその旨の明確な意思表示を必要とするものであつて、之を欠くときは単に手形上の債務のみを負担したものと解しても、特に債権者に不利益を強いるものともいい得ない。被控訴人は昭和一一年七月八日、昭和一二年八月七日、昭和一六年一〇月一三日の各大審院判決を援用しているが、いずれも判例集に登載されたものではなく、当裁判所は他人に信用を利用させるため約束手形の共同振出人となつたからとて、その他人のため連帯保証債務を負担したものと推認しなければならぬものではないとの最高裁判所判例(昭和三五年九月九日、民集一四巻一一号二一一四頁)の趣旨を手形の裏書の場合にも及ぼすべきものと解する。

而して本件においては、被控訴人提出援用の全証拠によるも、控訴人が右裏書に際し、別に保証若くは連帯保証契約をなしたことは認定できないのである。又被控訴人は予備的に手形保証があつたと主張するのであるが、単に手形に裏書人としての署名捺印をしたのみを以て、裏書以外に尚手形保証がなされたものと見る余地のないこと多言を要しない。而して成立に争のない乙第三号証によると被控訴人より右手形の裏書を受けた訴外堀田建設株式会社の提起した手形金請求の別訴も手続の欠缺を理由に敗訴に了つたのであるから、他に控訴人に対して債務の履行を求める途はないと見なければならない。

仍つて被控訴人の本訴請求はその余の争点につき審究するまでもなく、すでにこの点において失当として棄却すべきものであるから、之を認容した原判決を取消すべきものとし、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加納実 裁判官 沢井種雄 加藤孝之)

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